月夜見 “甘いはお好き?”

         *「残夏のころ」その後 編


そもそも急場をしのげることが売りだった店だからか、
安売りも滅多にしない。
会員ポイントというのも携帯電話が要ったりしてと、
どこか若者相手という印象の強かったコンビニでも。
近年では“高齢者にも優しい品揃え”という方針、
打ち出しているチェーンも増えたせいだろか。
四季折々の祭事にまつわる、食品だの雑貨だのもきちんと取り揃え、
のぼりまで立てて
“買い忘れはありませんか”と宣伝しているほどであったりし。

 「だよな〜。
  おせち料理の予約とか受け付けてるし、
  お盆のお供え菓子とかも並べてっし。」

 「いや、そっちは
  スーパーマーケットの話なんじゃね?」

コンビニじゃあ、
クリスマスケーキやフライドチキンまでが限度だろうよ。
え〜、そうだったかなぁ? 俺どっかで見たもんよ…と。
特設スペースに並べる商品を満載した台車を押してく、
バイトの高校生二人が口にしているのを、
何とはなく耳にした誰かさん。

 「………。」

彼らが向かっている方向の先を見やり、
通路の丁度 突き当たりに“フェア”なんてものを展開中の、
微妙に赤の目立つファンシーな棚を、
何やら思うところがあるらしい様子で
“うう〜む”と見つめ続けるものだから。

 「どしたよ、ルフィ。」

出入り口に短期契約で店を出している植木屋の、
店名入りの特注ハッピを羽織った赤毛の店長さんが、
通りすがりざま、身内の気安さ滲ませたお声を掛けている。
声を掛けつつ、その態度や視線を読み込んで、
既に“はは〜ん?”と 何割かは察しているくせに、

 「………え?」

いやあの、何でもねぇと。
我に返った坊ちゃんが、見事なほど判りやすくもあたふたするの、
おやおやと微笑ましいねぇと眺めやり、

 「何だ何だ、今年は幾つ貰えんだろかって皮算用か?」
 「ち、違げぇよっ!////////」

そういう方向での誤解もまた、
冷やかし半分なのがイヤなのだろう。
微妙なお年頃ならではで、
素直にぎゃーぎゃーと完全否定の声を出すところは、
まま、例年通りの反応か…なんてところで納得仕掛かった、
挑戦心の旺盛な、相当に気の若い店長さんだったものの。
にまにまとした“微笑ましいねぇ”笑いが途中から、
あれれぇ?という引っ掛かりに染まり始める。
というのが、

 “……いや待て、そうだったかな?”

あんまり深く考えない子だし、
ましてや他人事だったなればこそ、

 『そうだよな幾つ貰えるかなぁ……義理が』

とばかり、
あっけらかんとした応酬をしてはなかったか?
それも、つい昨年のこの時期に。
いやいや、あの頃はまだ、
ウチでのバイトをしてはなかったから、
もっと前の話かな。

 “つか………。”

いい加減なこと言うなよなと、
真っ赤になってる甥っ子のお顔から、一瞬ほどチラッと。
野菜や手作り乾物を置く産直コーナーではないこっち側、
日用食品、グロサリー売り場のあちこちに、
さりげなく掲げてある防犯用カーブミラーに眸をやれば。
裏方の控室や在庫置き場、
所謂“バックヤード”へ通じているスィングドアが開くのが見えて。

 「……そっか、
  義理より本命のがほしい相手とかいうのが、
  居るんだな? 今年は。」

 「な……。////////」

ますますのこと真っ赤になった、
何とも判りやすい坊っちゃんなのへ、

 「そういや去年からは“逆チョコ”ってのも流行り出したそうだしな。
  何だったら、お前の方からやるってのも手じゃねぇの?」

ああでも、チョコは好物だから、
やるくらいなら自分で喰うのを買いてぇか?と。
恋愛方向へのからかいというよりも、
最後は食い意地の張った奴だからなぁというオチにして、
だっはっはっはっと豪快に笑い飛ばして立ち去った叔父貴であり。

 「……何なんだよ、まったくよ。」

去り際に、あちこち撥ねまくりな髪ごと、丸い頭をぽふぽふと、
大きな手で撫でてってくれたのが、
まま気持ちよかったものだから。
それ以上は吠えまいと、武士の情けを決めかけたその間合いへ、

 「おはよっす。」
 「〜〜〜っ!」

真後ろから掛けられた声に、どひゃあっと小さめの肩が跳ね上がる。
背丈の差とか、今時分に出てくる相手だからとかいう以前の話として、
日頃はちょっぴり軽くて乾いたクセのある声なのに、
でもでも低められると厚みを増して、結構 味のあるお声に変わる、
そんなお声の持ち主さんだと感覚で知っている相手であり、

 「お、おはよ。」

そおっと振り返れば、相変わらずに自分よりも上背のある剣豪が、
顎だけ引いてのこちらを見下ろして来ておいで。

 「今日は早出の日だったんだ。」

うすとも おすとも聞こえるような、
短いお返事返してくれて、
売り場に行かないんすかという意味合いのそれ、
進行方向をちらっと見やった仕草に促され、
そだったそだったとルフィもまた我に返ると、
自分の持ち場へ向かって歩き出す。
途中、さっきのバイトらが補充の担当らしい、
特設コーナーの前を横切ることとなり、

 “〜〜〜えっとぉ。”

何でだろ、何でオレ、こんな意識してんのかな。
ガッコでも部活でも、こういう話とかしないじゃないのにな。
つか、

 「あの…。」
 「先輩ももらうんすか、やっぱ。」

  はい?、と

こちらからも持ち出そうとした話を振られ、
そっちを見上げかけていた、ルフィのドングリ目が見開かれる。
その視線の先には、相変わらずにぶっきらぼうなゾロの顔。
作業用のグレーの上着を、
けれど体格が出来上がってるからか、
余裕で着こなしてるかっちりした肩の上。
単なる時事話だからか、それとも…いい思い出がないものか。
ちょっぴり不機嫌そうな真顔なまんま、こっちを見やる彼であり。

 「…えっと。クラスの子とか部の子が皆にってくれるのを。」
 「あ、じゃあ俺と一緒っすね。」

ははと微笑ってくれたので、やっとのことホッとする。
今みたいな目許をたわめた笑い方は、愛想笑いじゃないって知ってる。
お客さんへのとか、何か褒められたときなんかのおざなりな笑い方だと、
よく見ると口しか笑ってなくってサ。
今みたいに息をつきながらじゃねぇもんな…なんて。


  いつの間にか、
  声どころじゃなく そこまで把握出来てることが、
  何を意味するのかなんて知らないルフィであり。


  そうしてそして……。


売り場の手前、
スィングドアに手を掛けながら、

 「そういや、ゾロって道場にも通ってんだろ?」

つか、ガッコの部活より そっちが本道って言ってたよなと、
思い出したようにルフィが訊いた。
というのが、

 「そういうところって、
  そんな軟弱なことに参加するなとか言われねぇ?」

ともすれば やっかみもあるのかも知れないが、(笑)
気持ちが浮わつくのはよろしくないってことで。
受け取ってはいけませんなんて強引なこと、
師範とかせんせえが、
前々からあったしきたりみたいに押し付けるとこもあるって話、
ウチの(柔道部)連中も言ってたしサと。
今時そりゃないかなという含みを込めて、
あははと笑いつつ、あっけらかんと言ったところが、

 「……そういうことはないですよ。」

何でだろうか、微妙に落ち着いたお声になったような気がして。

  ……え?っと

何でそんな、ただでさえクールでカッコいいのに、
こんな話んときに、それを持ち出しての真顔になって言うのかなって。
気のせいか、敬語っぽい言い回しも きょーちょーされてたみたいだしと。
こっちまでもが、その表情を止めてしまったルフィさんだったりし。


  チョコを貰うかどうかへ、探りを入れたりもやもやしたり。
  もう十分に出来上がりかかってる二人だからこそ、
  そんな内容の話をしているんだってこと。
  気がついてないってのがまた、


  「周囲をやきもきさせるっての、判んないもんなのかねぇ。」
  「判ってたら告白に至ってませんかね。」


つか店長、
お花屋さんが使うレジを出しに来たんじゃなかったですか?
ちゃんと仕事してくださいよと発破をかけられ、
覗き見を中断させられた店長さん以下、
結構な頭数に既に察しをつけられているにも関わらず、
ご当人たちのみが、正解から一番遠いところにいるらしい。
そんなもんです、初恋なんて…と。
ちょっと昔に流行ったラブソングが、
頑張れと応援するよに、そりゃあお元気に流れてたそうな。





   〜Fine〜  2011.02.07.


  *カウンター 374、000hit リクエスト
    ひゃっくり様 『残夏のころ設定で、バレンタインデーのお話を』


  *そして、こちらの、
   老舗和菓子屋のご隠居なレイリーさんところでは、
   この春 売り出し、
   バレンタインデー用のチョコ大福の試作品が、
   食べ盛りな坊やのお越しを待っているのでしょうねvv
   しかもしかも、

   「安心しなさい、ゾロの甘味の限界はよぉく知っておるから。」
   「じゃあさ、これだったら…。」

   食べられないとは言わぬだろうさと、
   思わぬ方向から焚きつけられていたりして。
(笑)

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

bbs-p.gif**

戻る